大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和32年(ネ)2018号 判決

日本相互銀行

証拠によれば、訴外多田茂男は、昭和二十六年八月十五日株式会社日本相互銀行から、金員を借り入れ、そのため極度額百十五万円利息年一割二分、期間の定めなく債務不履行による遅延損害金は日歩七銭で計算する旨の根抵当権を多田所有の本件建物に設定し、即日その旨の登記を経たことが認められる。

さらに他の証拠によれば、控訴人は、昭和二十六年四月二十五日多田茂男に対し金五十万円を利息月六分弁済期は貸付の日より三カ月後という約定で貸しつけたところ、多田は諸方から借財を重ね事業に失敗したため、控訴人の右貸金は早急に回収の見込がつかなくなつたところから、控訴人は、昭和二十六年八月末頃多田に対して右債権の弁済を促進するため、当時多田の所有であつた本件建物の賃借方を申入れ、多田も控訴人に債務を負担している関係上拒みきれず右申入を承諾し、同月末日控訴人にこれを賃料月五百円で期間の定めなく賃貸したので、控訴人は同年九月はじめ頃多田から本件建物の引渡を受けて入居したが、昭和二十七年四月七日多田と合意の上右賃貸借の期間を同月五日から向う三カ年間と定めたことを認めることができる。

一方株式会社日本相互銀行は右抵当権に基き本件建物の競売を申し立て、昭和二十七年三月十日横浜地方裁判所において競売開始決定がなされ、同年三月十三日その旨の競売申立登記を経由し、被控訴人は右競売手続において本件建物を競落したことが証拠により明らかである。

以上認定の事実関係によれば、控訴人の賃借権の対抗要件である引渡(賃借権の登記がなかつたことは明らかである。)は右抵当権設定登記より後であるから、右賃借権はその期間が三年を超えない場合であつて且つその期間内に限り抵当権者及び競落人に対抗し得るにすぎない。ところで、本件賃借権は、前記のとおりはじめ期間の定めがなく、従つて何時でも解約の申入ができるものであつたが、後に期間を三年と定められたのであるから、終始民法第六百二条の期間を超えない賃貸借であつたということができるので、たとい引渡が本件抵当権設定登記の後であつたとしても、控訴人はこれをもつて抵当権者従つて競落人に対抗できたのであるが、その期間満了前(右期間は昭和二十七年四月五日から起算するものとしても昭和三十年四月五日までである。)すでに右抵当権実行による競売申立登記がなされたのであるから、控訴人はもはや右賃貸借が借家法第二条により更新されたとしてこれをもつて抵当権者従つて競落人に対抗することはできないであろう。けだし競売申立登記がなされた後は競売の目的物に対する差押の効力が第三者に対しても発生するものであるからである。従つて控訴人は被控訴人に対して右賃貸借を理由として明渡を拒むことはできない。

次に控訴人は、多田に対する前記貸金五十万円を右賃貸借の敷金としたところ、これを被控訴人において承継したから、その返還と引換でなければ明渡請求に応じられないと主張するが、敷金の承継は被控訴人が控訴人主張の賃貸借の貸主たる地位を承継したことを前提としてはじめて考えられることであるが、前認定のとおり、控訴人は右賃貸借をもつて被控訴人に対抗することができず、従つて被控訴人が右賃貸借の貸主たる地位を承継するということもあり得ないので、仮りに控訴人が多田茂男に対してその主張の敷金を差入れていたとしても被控訴人においてこれを控訴人に返還すべき義務はない。

次に控訴人の権利濫用の主張について判断するのに、被控訴人の本件明渡請求権行使がその必要性を欠き単に控訴人に損害を加えるにとどまるとか、或いはその行使により当事者双方に生ずべき利害得失の差が甚だしくて到底社会生活上容認できないとかいう事情は何ら認められないから、被控訴人の本件請求は権利の濫用とは認められない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!